わたしの読書あれこれ(その24);第十八回目
諫山 禎一郎
   五月二十五日は、東京・池袋の東京芸術劇場でブランディス弦楽四重奏団の演奏を聴き、まさに至福の時を過ごした。この四重奏団はトーマス・ブランディスを中心にベルリン・フィルのメンバーによって創設され、いずれも世界的な名手たちである。当日は、モーツアルト一色のプログラムであった。特に、カール・ライスターをソリストに加えたクラリネット五重奏曲(K581)は、すばらしかった。演奏会が終ると、友人と近くのなじみのバーで、一杯飲み音楽談義をするのも楽しみである。今、会場で買った同じプログラムのCDで、当日の感激を再度味わっているが、同じ内容で輸入盤二千二百円に対し国内盤は二千五百円だった。解説が英文か邦文の違いだけで、迷わず輸入盤を買った。CDも本と同じように見かけた時に買わないとつい買いそびれる。

 ところで、漫画家・砂川 しげひさ氏の「なんたってクラシック−ぼくの一方的音楽宣言−」(朝日文庫)によると、ホンモノのクラシック・ファンとは、 音楽はクラシックしかきかない  レコードは百枚以上もっている  一カ月に一回はコンサートにいく  音楽史に通暁している  演奏に一家言もっている  自分の聴覚に絶大なる自信をもっている  音楽を職業にしていない とある。かなり、独断と偏見にみちた条件ではあるが、いかが。

 というわたしも、クラシック・ファンのはしくれと思っているが、この条件にかなうのは と だけである。 の百枚以上というのもなぜ百枚なのか気になるが、レコードのほか、CDやFM放送やレンタルCDからのダビングしたカセットテープなどを入れればそれ位にはなるかも知れない。

 ともあれ、嘉穂東高校の生徒だった昭和二十六、七年頃、今の飯塚公民館の場所に飯塚市公会堂があり、ここが当時飯塚での唯一の演奏会場だった。ここに、故山下鎌次郎先生の指示で嘉穂東のピアノを運ぶアルバイトをした。そのバイトの代償は、会場にもぐりこみ演奏を聴くことだった。これが、わたしの音楽鑑賞の原点である。その時聴いたのが原智恵子さんたちのベートーベンの「大公」であった。原さんは、当時我が国を代表する演奏家だったが、先年テレビでイタリアに暮らしておられる姿を見て、びっくりした。わたしはその後、上京してNHK交響楽団の定期演奏会の会員になり、かれこれ四十年以上になる。これは夏季を除き毎月演奏会があり、会場も日比谷公会堂、上野の東京文化会館、今の渋谷のNHKホールに変わった。それに、都民劇場(東京都の外郭団体)・音楽サークルにも入っており、これまた月一回位演奏会があり、都合月二回はコンサートに通っていることになる。前述のブランディスは、この都民劇場の例会であった。そんなに行って、お金の方はといわれるが、その点は安い席しか買わないからご心配なく。ただ、会場が以前東京文化会館だった時、一番安い席(すなわち最上階)では高所恐怖症のわたしは、座っているだけでゾクゾクするので一つ下の階に降りた。お陰で、料金はワンランク上がってしまった。この都民劇場は、外人のコンサートが多いのが特徴である。また、ここでは、嘉穂高女の卒業生数人も会員で、時たまお会いする。

 大学では、「バッハ」(岩波新書)などで著名な故辻荘一先生の授業は、持参されたレコードによる解説があり、基礎的な勉強になった。その後、今から十五、六年位前になるが、NHKホール入口でもらったチラシに、渋谷音楽教育協会の鑑賞教室の案内があり、渋谷区の社会教育館を利用して週一回夜開催しているとのこと。早速入会して樋口隆一先生(明治学院大学教授)の講義を受けた。先生は、著書に「バッハ」(新潮文庫)、「ミューズの道草」(春秋社)などがあり、新バッハ全集の校訂もされている方である。一テーマが三、四カ月、ハイドン、ベートーベン、モーツァルトなどテーマが変わり、四、五年位通ったと思う。教室では、前述の辻先生の特別講義や故奥田良三氏など内外の演奏家が腕前を披露したこともある。この例会は、会費は確か一回千円程度ではなかったかと思う。出欠自由、会費も出席した分のみ払うというのが魅力だった。常時、大学生からご老人まで四、五十人位の出席者があった。また、時々親睦パーティーもあった。今は、樋口先生は多忙になられたことなどで活動が低迷しているのが残念だ。このような音楽好きのボランティアが運営する会が、もっとあってもよいと思う。

 クラシック音楽は、決して難しいものではなく、ただ聴くだけでもいいと思うが、その曲の構成や作られた時代背景、作曲家や演奏家のことなどを追及すると楽しみも増えてくると思う。(一九九九年六月)